前回の第2話では、3つの改善策を試して全部失敗した話を書いた。
今回は「もっと情報を増やせば精度が上がるはず」という思い込みが完全に崩壊した話と、思いがけない発見の話だ。
「情報が足りないから精度が出ない」という仮説
第2話の時点で、予測に使っているシグナルは3つだけだった。
- 移動平均線のクロス(MA5 vs MA20)
- RSI(売られすぎ/買われすぎ)
- ボリンジャーバンド(上限/下限からの位置)
3つのシグナルで多数決。シンプルだ。
「シグナルが少なすぎるから精度が出ないんだ。もっと情報を入れれば当然よくなるはず。」
そう考えて、4つの指標を追加した。
追加した4つの指標
v2モデル(v1 + 4指標):
- MACD: トレンドの勢いを測る
- 出来高比: 売買が活発かどうか
- VIX(恐怖指数): 市場全体の不安感
- ドル円レート: 円安なら日本株に追い風
さらに「セクター間の相関」も追加した。
v3モデル(v2 + セクター相関):
- 53銘柄×6つのマクロ指標の相関行列
- 「原油が上がると自動車株は下がる」といった関係性をシグナル化
合計8つのシグナルで多数決。情報量は3倍近い。
「これだけ入れれば精度は上がるだろう。」
バックテスト結果を見て絶句した
3ヶ月分のデータでバックテストを回した。
v1(MA・RSI・BB のみ) : 50.8%
v2(v1 + MACD/出来高/VIX/ドル円): 48.6%
v3(v2 + セクター相関) : 48.6%
増やすほど下がっている。
v1のシンプルな3指標が50.8%。VIXやドル円を足したv2は48.6%。さらにセクター相関まで足したv3も48.6%。
「多変数ノイズ問題」という言葉を後から知った。
指標を増やすと、本来の方向性を示すシグナルが新しいノイズに埋もれてしまう。情報が増える=精度が上がるとは限らない。
むしろ、シンプルな方が強い。
「悲観的すぎ」という別の問題
バックテストの結果をもう少し掘り下げた。9日間の答え合わせデータを方向別に分析した。
全体正解率: 56.6%
予測↓→実際↑(悲観的すぎ): 31件 (31.3%)
予測↑→実際↓(楽観的すぎ): 12件 (12.1%)
間違いの2.6倍が「下落を予測したのに実際は上昇」だった。
モデルが悲観的すぎる。特に、急落後の反発局面でひどくなる。
3月16日と17日は正解率25%。3月23日は43%。いずれも「市場が急落した翌日に反発した」日だ。移動平均もMACDも「まだ下がる」と言っているのに、実際は反発している。
「平均回帰」を試して失敗
「急落したら反発するはず」——これを数値化しようとした。
v4モデル(v1 + 平均回帰シグナル):
- 直近5日間で-3%以上下落していたら、反発期待で+1シグナル
バックテスト結果: 50.7%。v1(50.8%)より微妙に悪い。
単純な閾値では「下がった後に反発する」を捉えられなかった。下がり続けることもあるからだ。
たった1つの発見
ここまで、指標を増やすアプローチは全敗だった。
発想を変えた。「個別銘柄の指標」ではなく「市場全体の流れ」を見ればどうか。
日本市場は毎朝9時に開く。前の晩のアメリカ市場が上がっていれば、日本市場も引きずられて上がることが多い。テレビのニュースでも「NYダウが上昇したことを受けて〜」と毎朝言っている。
v5モデル(v1 + 前日の米国市場):
- S&P500の前日終値が前々日より0.3%以上上昇 → 日本株に+1
- S&P500の前日終値が前々日より0.3%以上下落 → 日本株に-1
v1: 50.4%(ベースライン)
v5: 52.2%(+1.8%改善)
初めてベースラインを超えた。
銘柄別に見ると、45銘柄中27銘柄でv5がv1を上回った。特に三菱商事(+11.9%)、東急不動産(+15.3%)、コナミ(+15.3%)で大きく改善。
ただし全銘柄で勝つわけではない。ソニー、NTT、トヨタはv1の方が良い。
今の仕組み
現在は銘柄ごとに最適なモデルを自動選択する仕組みにしている。
- トヨタ、NTT → v1(シンプル3指標)
- 三菱商事、東急不動産 → v5(v1 + 米国市場連動)
バックテスト結果に基づいて、毎月自動で最適モデルが更新される。
学んだこと
- 情報を増やせば精度が上がるわけではない。 むしろ下がることがある
- 悲観バイアスへの対策が最優先。 間違いの2.6倍が「下落予測→実際上昇」
- 「前の晩のアメリカ」が日本市場には最も効く。 個別指標より市場全体の流れ
- 銘柄ごとに最適な手法は異なる。 一律に同じモデルを当てはめてはいけない
精度52.2%。まだコインの裏表とほぼ変わらない。ランダムに勝てているかも微妙だ。
でも、「何が効かないか」がわかった。残った候補は少ない。次はそこを掘る。
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免責事項: 本記事は個人の体験記録です。投資判断はご自身の責任で行ってください。