買いシグナルをAIで選別すれば勝てるか?——定番シグナル4種×機械学習を21年分検証してもボツになった【ボツ検証 #2】

3連騰・押し目・ゴールデンクロス・モメンタム。定番の買いシグナル4種をAIで選別する手法(メタラベリング)を日米約1,000銘柄×2006年からの約21年・月次510回で検証。AIの改善効果は米国で統計的に本物だったが、それでも市場平均に届かなかった。年別推移を含む生データを専門用語の解説付きで公開する。

序文:シグナル単体がダメなら、AIで選別すればいいのでは?

このシリーズでは、当ラボが実際に検証して**ボツにした「投資の常識」**を、検証条件と数値ごと公開している。前回(ボツ検証 #1)では、ゴールデンクロスで買いデッドクロスで売るという定番ルールが「買って持ち続ける」に勝てないことを確認した。

そこで当然、次の疑問が浮かぶ。「シグナル単体では弱くても、AIで良い場面だけを選別すれば勝てるのではないか?」

実はこの発想には名前がついている。メタラベリング——ルールが売買の「候補」を出し、機械学習モデルがその候補に「乗るか・見送るか」のラベルを付ける2段構えの枠組みで、ヘッジファンドの世界でも使われる王道の手法だ。今回はこれを約21年分のデータで本気で検証した結果を公開する。

先に結論を言うと、**AIの改善効果そのものは米国株で「統計的に本物」と判定された。それでもボツになった。**その理由にこそ、この検証の一番の学びがある。

⚠️ 先にお断り:本記事は特定の売買を推奨するものではなく、当ラボの検証環境における過去データの分析結果です。将来の成果を保証するものではありません。

📖 まず用語の説明(この記事を読むのに必要な知識はこれだけ)

用語意味
バックテスト「もし過去にこのルールで売買していたら儲かったか」を過去の株価データで再現する検証のこと
移動平均線直近◯日間の終値の平均をつないだ線。株価のトレンドをなめらかにして見るための道具
ゴールデンクロス短い期間の移動平均線が、長い期間の移動平均線を下から上に追い抜くこと。買いシグナルの定番
市場平均検証対象の全銘柄(日本株なら約500銘柄)を均等に買った場合の平均リターン。「その戦略に銘柄を選ぶ力があるか」を測るものさし
勝率検証期間を区切ったとき、市場平均に勝てた回数の割合
p値「その結果が、実力ではなく偶然でも起こる確率」。小さいほど本物らしい。当ラボでは p値が0.05(5%)未満 でなければ採用しない
機械学習過去データからパターンを自動で学習する計算手法。この検証では株価の特徴(値動き・ばらつき等)から「勝てそうな候補」を判別させた
メタラベリングルールが売買候補を出し、機械学習が候補ごとに「乗る/見送る」を判定する2段構えの手法
ウォークフォワード検証「その時点までに手に入るデータだけ」で学習させ、その先の未来を予測させる方式。未来のデータを使ってしまうズル(カンニング)を防ぐ

🧪 検証の仕組み:ルールが候補を出し、AIが選別する

仕組みは2段階になっている。

  • ステップ1: 定番の買いシグナル4種が「候補」を出す
    • 3連騰——3日連続で株価が上昇した
    • 押し目——直近25日の平均価格より5%以上安くなった(下がったところを拾う)
    • ゴールデンクロス——直近10営業日以内に発生した
    • モメンタム上位——直近1ヶ月の上昇率が全銘柄の上位20%に入った(勢いに乗る)
  • ステップ2: AI(過去データで学習した機械学習モデル)が候補を1件ずつ見て「買う/見送る」を判定する

検証の条件

項目内容
対象日本株492銘柄(東証の主要銘柄)+ 米国株500銘柄(S&P500採用銘柄)
期間2006年〜2026年7月の約21年。毎月1回判定し、日米あわせて510回
判定方法候補銘柄を買って1ヶ月後、市場平均より上がったかで採点
AIの学習ウォークフォワード検証(2000年からのデータを使い、その時点までの情報だけで学習・未来は見ない)
売買コスト売買あたり0.2%を差し引き

比べたのは次の2通りだ。

  1. ルール通り全部買う——シグナルが点灯した候補を無条件で全部買う
  2. AIが選んで買う——AIが「勝てそう」と判定した候補だけ買う(採用率は日米とも約半分)

なお、検証対象は「現在の主要銘柄」を過去にさかのぼる方式のため、途中で上場廃止になった銘柄は含まれない(生存者バイアス)。ただし比較相手の「市場平均」も同じ銘柄群で計算しているため、シグナルの優劣という相対比較への影響は限定的だ。

📊 結果①:21年の集計——AIで選んでも市場平均に届かない

数字は「市場平均と比べて毎月どれだけ上か下か」の中央値を年率に換算したものだ。

買い方日本株(252回)米国株(258回)
ルール通り全部買う年−1.9%(勝率37%)年−2.2%(勝率38%)
AIが選んで買う年−1.8%(勝率44%)年−0.5%(勝率48%)

まず土台の事実。定番シグナル4種が選ぶ銘柄群は、21年を通して市場平均に負けていた。「シグナルが点灯した銘柄だけを買う」という発想自体が、コスト込みの月次リターンでは市場平均を下回る。

そのうえで、今回一番おもしろい結果はこれだ。

**米国株では、AIによる改善効果(AI選別と全部買いの差、月あたり+0.14%)が、21年・258回の検証で「偶然の範囲」を明確に超えた(p値=0.011)。**AIは傷んだ候補群の中から、比較的マシなものを選ぶ仕事を確かにしていた。

**それでもボツである。**理由は2つ。

  1. 改善してもなお市場平均に届かない(年−0.5%)。傷んだ食材の中から比較的マシなものを選んでも、良い料理にはならない
  2. 日本株では同じ改善効果が偶然の範囲を出なかった(p値=0.244)。市場をまたいで再現しない効果は、当ラボの基準では採用できない

📊 結果②:年別の推移(21年分・全公開)

集計値だけでは実態が見えないので、年ごとの成績推移を全部見せる。数字は「その年の各月に、市場平均と比べてどれだけ上か下か」の中央値だ。

日本株(492銘柄)

ルール通り全部買うAIが選んで買うAI選別の勝率
2006年−0.348%−0.130%31%
2007年−0.036%−0.057%46%
2008年−0.179%+0.021%50%
2009年+0.043%+0.549%58%
2010年−0.239%+0.289%58%
2011年−0.279%−0.320%46%
2012年+0.460%+0.058%67%
2013年−0.171%−0.064%50%
2014年−0.155%−0.072%33%
2015年−0.482%−0.788%38%
2016年−0.017%+0.323%67%
2017年−0.423%−0.249%42%
2018年−0.315%−0.458%43%
2019年−0.267%−0.287%42%
2020年+0.306%−0.171%42%
2021年−0.507%−0.249%25%
2022年−0.184%+0.282%50%
2023年−0.246%−0.309%33%
2024年−0.390%−0.597%38%
2025年+0.092%−0.611%25%
2026年(7月まで)+0.894%−0.726%40%

米国株(500銘柄)

ルール通り全部買うAIが選んで買うAI選別の勝率
2006年−0.194%−0.003%46%
2007年−0.122%+0.080%54%
2008年−0.332%−0.238%50%
2009年+0.001%+0.048%54%
2010年−0.167%+0.104%58%
2011年−0.278%−0.461%38%
2012年−0.324%−0.477%38%
2013年+0.010%+0.288%50%
2014年−0.306%−0.296%46%
2015年−0.631%−0.301%42%
2016年+0.176%+0.371%54%
2017年+0.036%+0.226%67%
2018年+0.059%+0.158%54%
2019年−0.436%−0.640%31%
2020年−0.353%−0.430%42%
2021年−0.216%−0.198%31%
2022年−0.229%−0.761%33%
2023年−0.113%+0.026%54%
2024年−0.042%−0.584%31%
2025年+0.367%+1.106%67%
2026年(7月まで)+0.558%+1.054%83%

「ルール通り全部買う」が中央値プラスだった年は、日本株で21年中5回、米国株で7回程度。大半の年で、シグナル点灯銘柄は市場平均に負けている。

🔍 「効いた年」に法則はあるのか?——調べてみた

年別の表を眺めると、AIの選別がはっきり効いた年がある。ここに法則が隠れていないか——同じ疑問を持った読者のために、当ラボが調べた結果をそのまま書く。

日米そろってAIの選別が効いた年は、2009年・2010年・2016年。それぞれリーマンショック後・欧州危機後・チャイナショック後の**「暴落のあとの回復局面」**という共通点がある。暴落で株価がばらばらに売られた後は、良い銘柄と悪い銘柄の区別がつきやすくなり、選別が機能しやすい——という説明は筋が通る。

だが、この「法則候補」は採用まで届かなかった。理由は3つ。

  1. 反例がある:2022年(世界的な金利ショックの年)は、日本ではAI選別が効いた(+0.282%)のに、米国では大きく逆効果だった(−0.761%)。市場をまたいで一貫しない。
  2. 回数が少なすぎる:「暴落後の回復年」は21年間に3〜4回しかない。この回数では、本物の法則なのか偶然なのかを統計的に区別できない。
  3. 後出しの区間選びは危険:21年を年単位で切れば、偶然だけでも「効いて見える区間」は必ず見つかる。効いた区間を後から選んで「ここでは有効」と言うのは、検証ではなく結果論だ。

もうひとつ、日本株で興味深い副作用が見つかった。2000年代のデータまでさかのぼって学習させると、直近の2025〜2026年の成績がかえって悪化した(学習期間が2014年以降だけの予備検証ではプラスだった年が、マイナスに転じた)。古い時代の値動きパターンは、現代の市場ではもう通用しない——過去データが多ければ多いほど良いとは限らないことを示す実例だ。

🤖 おまけ:AIは「押し目」を好み、「勢いへの飛び乗り」を嫌った

AIがどのシグナルの候補を採用したかの内訳。この傾向は21年を通して一貫していた。

シグナルAIの採用率(日本株)AIの採用率(米国株)
押し目(下がったところ)80%75%
ゴールデンクロス直近45%51%
3連騰33%38%
モメンタム上位(勢いに乗る)26%32%

過去データで学習したAIは、**「下がったところを拾う」候補を最も信用し、「直近の急騰に飛び乗る」候補を最も信用しなかった。**ただし繰り返すが、その押し目でさえ全体としては市場平均に勝てていない。

✅ では何が検証を通ったのか

同じ検証環境・同じ採用基準で、逆に生き残ったものがある。

生き残った手法内容検証結果
買って持ち続けるタイミング売買をしない検証したタイミング売買ルールのすべてが「持ちっぱなし」に負けた
月次の相対力ランキング「どの銘柄が今月相対的に強いか」を全銘柄横断でAIが順位付けする市場平均を年+3.7%上回る(2018〜2025年・コスト差し引き後)

興味深いのは、生き残ったランキングも今回ボツになった手法も、使っているAIの技術も株価データもほぼ同じということだ。違いは「シグナルで候補を絞ってから選ぶ」か「全銘柄をそのまま相対比較する」か、それだけ。**シグナルによる絞り込みという一手間が、むしろ成績を悪くしていた。**後者のランキングは当サイトのAI銘柄ランキングとして毎週更新している。

📌 まとめ

  • 定番買いシグナル4種:21年・510回の検証で、シグナルが選ぶ候補群自体が市場平均に年1.9〜2.2%負ける(ボツ)
  • AIによる選別(メタラベリング):米国では改善効果が統計的に本物(p値=0.011)だったが、それでも市場平均に届かず、日本では再現しなかった(ボツ)
  • 「効いた年」の共通点(暴落後の回復年)は見つかったが、反例と回数不足で法則としては採用できなかった
  • AIに良い仕事をさせたいなら、候補を絞らせず全銘柄を相対比較させる方が成績が良かった
  • 前回の検証: 「ゴールデンクロスで買えば勝てる」は本当か?【ボツ検証 #1】

次回のボツ検証では、「好決算の銘柄を決算発表後に買えばまだ間に合う」という常識(決算後の株価ドリフト)を検証した結果を公開する予定だ。

⚠️ 免責:本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。バックテストは過去データに基づく検証であり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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