「ゴールデンクロスで買えば勝てる」は本当か?——最大64年分のデータで検証したらボツになった【ボツ検証 #1】

ゴールデンクロスで買い、デッドクロスで売る。チャート分析の定番ルールを日米8銘柄×最大64年・680回の検証窓で調べた結果、「買って持ち続ける」に勝てた年はほとんど存在しなかった。年別の成績推移と検証の生データを、専門用語の解説付きで公開する。

序文:採用された手法より「ボツになった手法」の方が価値がある

Turnip Lab では、サイトに載せる指標や運用ルールを採用する前に、必ず過去データを使った検証(バックテスト)を行っている。そして実際に検証してみると、採用に至る手法より、ボツになる手法の方が圧倒的に多い。

投資の世界で出回る情報には強い偏りがある。「うまくいった話」は本になりSNSで拡散されるが、「検証したら効かなかった話」は誰も発信しない。だが投資で損を減らすうえで本当に役立つのは、後者だ。

このシリーズでは、当ラボが実際に検証して**ボツにした「投資の常識」**を、検証条件と数値ごと公開していく。第1弾は、投資の入門書に必ず出てくる定番中の定番——ゴールデンクロスだ。

⚠️ 先にお断り:本記事は特定の売買を推奨するものではなく、当ラボの検証環境における過去データの分析結果です。将来の成果を保証するものではありません。

📖 まず用語の説明(この記事を読むのに必要な知識はこれだけ)

用語意味
バックテスト「もし過去にこのルールで売買していたら儲かったか」を過去の株価データで再現する検証のこと
移動平均線直近◯日間の終値の平均をつないだ線。例えば「50日移動平均線」は直近50日の平均価格。株価のトレンドをなめらかにして見るための道具
ゴールデンクロス短い期間の移動平均線が、長い期間の移動平均線を下から上に追い抜くこと。「上昇トレンド入りのサイン」とされ、買いシグナルの定番
デッドクロスその逆。短い線が長い線を上から下に割り込むこと。「下落トレンド入りのサイン」とされる
買って持ち続ける戦略一度買ったら売買を繰り返さず、ずっと保有し続けるやり方。英語ではバイ・アンド・ホールドと呼ばれる。タイミング売買の成績を測る「ものさし」として使う
検証窓検証期間の区切り。この検証では「約2年間」をひとつの窓とし、開始時期を半年ずつずらしながら何百回も繰り返す。特定の時期だけのまぐれ・不運を除くための方法
勝率(勝ち窓)全検証窓のうち、クロス売買が「買って持ち続ける」に勝てた窓の割合
p値「その結果が、実力ではなく偶然でも起こる確率」。小さいほど本物らしい。当ラボでは p値が0.05(5%)未満 でなければ採用しない

🧪 検証:ゴールデンクロスで買い、デッドクロスで売る

「ゴールデンクロスが出たら買い、デッドクロスが出たら売る」——このルールを、期間の異なる3通りの移動平均線の組み合わせで検証した。

検証の条件

項目内容
ルールゴールデンクロスで全額買い・デッドクロスで全額売って現金にする
移動平均線の組み合わせ20日と50日・25日と75日・50日と200日 の3パターン
対象米国の成長株・配当株と日本株の代表8銘柄(アップル・マイクロソフト・コカコーラ・トヨタ自動車など)
期間各銘柄の上場から最大64年分。約2年の検証窓を半年ずつずらしながら合計680窓
売買コスト売買のたびに0.10%を差し引き(実際の手数料や価格のズレを想定)
比較相手同じ銘柄・同じ期間を「買って持ち続けた」場合の成績

つまり「同じ銘柄・同じ2年間で、クロス売買と持ちっぱなしのどちらが儲かったか」を680回比べた。

結果①:全体集計——3パターンすべてで大差の敗北

数字は「買って持ち続けた場合と比べて、2年間でどれだけ上か下か」の中央値だ。

移動平均線の組み合わせ持ちっぱなしとの差(中央値/窓)勝ち窓の割合2年間の平均売買回数統計判定
20日と50日−19.0%約2割11.0回劣後が確定(p値=1.000)
25日と75日−17.0%約2割7.3回同上
50日と200日−13.7%約2割2.7回同上

680窓を通して、クロス売買が「買って持ち続ける」に勝ったと統計的に言える組み合わせはひとつもなかった。むしろ2年あたり13〜19%も置いていかれる。売買回数が多い組み合わせ(短い移動平均線)ほど、コストがかさんで差が広がった。

結果②:年別の推移——直近20年間、勝てた年はほぼない

集計値だけでは実態が見えないので、検証窓を開始した年ごとの成績推移を見せる。数字は「その年に2年間の検証を始めた場合、持ちっぱなしと比べてどうだったか」の中央値だ(複数銘柄×複数窓の集計)。

開始年20日と50日勝ち窓50日と200日勝ち窓
2005年−14.8%12%−22.4%6%
2006年−3.5%44%−0.5%44%
2007年+28.4%75%+12.6%75%
2008年+7.7%56%+1.4%50%
2009年−10.4%19%−18.4%0%
2010年−17.2%25%−13.2%0%
2011年−14.5%31%−11.3%12%
2012年−15.9%19%−11.1%19%
2013年−28.5%6%−7.1%25%
2014年−28.0%7%−3.5%27%
2015年−24.4%19%−8.3%25%
2016年−14.7%12%−13.9%6%
2017年−18.2%19%−10.5%12%
2018年−21.5%25%−13.4%12%
2019年−30.7%6%−15.9%12%
2020年−24.0%12%−4.6%38%
2021年−12.7%0%−12.0%44%
2022年−25.8%12%−16.2%12%
2023年−20.3%19%−27.5%6%
2024年−4.4%25%−25.6%0%

(25日と75日の組み合わせもほぼ同じ推移のため省略)

直近20年で、クロス売買がはっきり勝てた開始年は 2007年と2008年の2回だけだ。

結果③:64年さかのぼっても、勝てたのは「大暴落の直前」だけ

データは最も長い銘柄で1962年まである。64年分の年別推移を全部確認すると、クロス売買が中央値でプラスだった開始年は、1972〜1973年・1976年・2001年・2007〜2008年など数えるほどしかない。そして、この「勝てた年」には共通点がある。

勝てた開始年その2年間に起きたこと
1972〜1973年1973〜74年の石油ショック大暴落(米国株は約半分に)
2001年ITバブル崩壊の本格化
2007〜2008年リーマンショック(米国株は最大約57%下落)

つまりクロス売買が勝つのは「歴史的な大暴落を含む2年間」だけだ。デッドクロスで売って暴落を避けられた場合に限り、「持ち続けるより良かった」となる。それ以外の約60年間——つまり大半の期間——は、遅れて買い・遅れて売り・コストを払い続けて、じわじわ負け続ける。

問題は、次の大暴落がいつ来るかは事前に分からないということだ。「数十年に数回の大暴落の年」を当てられる人は、そもそもクロス売買を必要としない。

🤔 なぜゴールデンクロスは効かないのか

3つの理由に整理できる。

  1. 遅れて点灯する:ゴールデンクロスは移動平均線=「過去の平均」同士の交差なので、値動きの「結果」であって「原因」ではない。点灯した時点で、取れたはずの上昇の多くはすでに終わっている。デッドクロスも同様で、売れた時にはすでに大きく下げた後だ。
  2. 織り込み:クロスは市場参加者全員がリアルタイムで見えている。誰でも見える情報に、他人より先んじる余地はほとんど残っていない。
  3. コスト:2年間で平均3〜11回の売買が発生する。1回0.10%のコストでも、積み重なれば確実に成績を削る。

✅ では何が検証を通ったのか

同じ検証環境・同じ採用基準(p値0.05未満、かつ何度やり直しても結果がプラス側に収まること)で、逆に生き残ったものがある。

生き残った手法内容検証結果
買って持ち続けるタイミング売買をしない検証したタイミング売買ルールのすべてが「持ちっぱなし」に負けた
月次の相対力ランキング「どの銘柄が今月相対的に強いか」を全銘柄横断でAIが順位付けする市場平均を年+3.7%上回る(2018〜2025年・コスト差し引き後)

つまり当ラボの検証が繰り返し示すのは、「いつ買うか」の情報価値は薄く、「(買うなら)どれを買うか・そして売らずに持ち続けられるか」に価値が集中しているということだ。後者のランキングは当サイトのAI銘柄ランキングとして毎週更新している。

📌 まとめ

  • ゴールデンクロス売買:3種の移動平均線の組み合わせ×最大64年×680窓すべての集計で「買って持ち続ける」に敗北。2年あたり13〜19%の劣後(ボツ)
  • 年別推移で見ると、勝てた開始年は歴史的大暴落を含む2年間だけ(1972〜73年・2001年・2007〜08年など)。それがいつかは事前に分からない
  • 売買回数が多い組み合わせほどコストで差が拡大
  • 生き残ったのは「持ち続けること」と「相対力ランキング」だけ

続編:「シグナル単体では弱くても、AIで良い場面だけ選別すれば勝てるのでは?」——その検証結果は 買いシグナルをAIで選別すれば勝てるか?【ボツ検証 #2】 で公開している。

⚠️ 免責:本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。バックテストは過去データに基づく検証であり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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