中東が泥沼化したら株はどうなる?スタグフレーションに備える「守り」の銘柄選び

中東情勢の長期化でスタグフレーションが来たとき、投資家はどう動くべきか。1973年オイルショックとコロナ禍を鏡に、上がる銘柄・下がる銘柄を徹底整理した。

「また中東か」と思っていた自分が間違いだった

ニュースを開くたびに、中東の話題が流れてくる。

正直に言うと、最初は「遠い国の話」くらいの感覚だった。株価も一時的に揺れるが、どうせすぐ戻るだろう——そう思って画面を閉じていた。

だが少し腰を据えて調べ始めると、嫌な予感がしてきた。

問題は「今すぐ何が起きるか」ではない。長期化した場合に何が起きるかだ。そしてその「長期化」は、もう始まっているという見方が増えている。

専門家が口を揃えて警告しているのが「スタグフレーション」という言葉だ。不況と物価上昇が同時に起きる、経済の中で最も守りにくい状況を指す。

「コロナの時みたいに消費が冷え込む」に加えて、「オイルショックみたいにエネルギー代が爆騰する」が同時にやってくる。そういう最悪のシナリオが現実味を帯びてきた。

給料は上がらないのに、光熱費もガソリンも食料も値上がりする。節約しても消費税のように逃げられないコストが増え続ける。企業も利益が圧迫され、設備投資を絞り、雇用に影響が出る。この悪循環こそが、スタグフレーションの本質だ。

中央銀行がインフレを抑えようとして金利を上げれば、今度は住宅ローンや企業借入のコストが重くなり、景気をさらに冷やす。かといって金利を下げてしまうとインフレが止まらない。政策的に打つ手が限られる、という意味でもスタグフレーションは「経済の鬼門」と言われる。

これは、資産の持ち方を根本から見直すべきシグナルかもしれない。

歴史は「正確には」繰り返さないが、韻を踏む

投資の世界では「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」とよく言われる。2つの過去の危機を鏡にしてみる。

1973年、第1次オイルショック。

中東の産油国が石油の輸出を制限した。それだけで、原油価格は数ヶ月で約4倍に跳ね上がった。日本ではトイレットペーパーの買い占めが起き、物価が爆騰した。「狂乱物価」と呼ばれた時代だ。

企業のエネルギーコストが跳ね上がり、製造業・化学業界を中心に利益が急激に悪化した。株価は大幅に下落。そしてインフレを抑えるために金利が引き上げられると、今度は借金をしている企業や個人が苦しくなった。

この時に資産を守った人たちは、エネルギー株と金(ゴールド)を持っていた人たちだった。原油高の恩恵を受ける側にいたからだ。

2020年、コロナショック。

今度は需要側の問題だった。外出禁止令で旅行・飲食・対面サービスが壊滅した。しかし「家で楽しめる」任天堂やAmazonは急騰し、ネットインフラの需要が爆発した。

ここで重要な違いがある。当時は各国が「超低金利政策」で市場に資金を流し込んでいた。お金の借り入れコストが限りなくゼロに近い環境では、将来の成長に期待するテック株に資金が集まりやすい。

だが今は違う。

高金利・物価高の環境が続いている。金利が高ければ、将来の利益に期待するテック株よりも、今すぐキャッシュを生む「実需銘柄」が評価されやすくなる。「10年後に大きく成長するかもしれない会社」より「今年も確実に配当を出す会社」に資金が流れる構造だ。

同じ「自粛・節約」という空気でも、金融環境が全く違う。コロナの時のように「テック株を買えば全部解決」という単純な話にはならない。

ここで具体的な数字を見てみよう。コロナ禍が始まった2020年、Fedは政策金利を1.75%から一気に0.00〜0.25%まで引き下げた。さらに大規模な量的緩和でお金を市場に流し込んだ。この「最強のドーピング」がNVIDIAをはじめとするグロース株のPERを異常なまでに押し上げた原動力だ。

だが2026年3月現在、Fedの政策金利は3.6%付近で高止まりしている。中東情勢による原油高(120ドル超)が物価を押し上げており、金利を下げたくても下げられない状態が続く。コロナ時の「金利急降下+量的緩和」という追い風は、今の環境には存在しない。むしろ逆風が吹き続けている。これが、「同じような自粛ムードでも、コロナの時のようにテック株が素直に上がらない」決定的な理由だ。

上がる銘柄・下がる銘柄:セクター別の整理

歴史と現在の金融環境を踏まえると、セクター別の動きはある程度見えてくる。

上昇が期待できるセクター

最もわかりやすいのはエネルギー(石油・天然ガス)だ。供給不安で原油価格が上がれば、石油メジャーや資源関連企業の利益が直接膨らむ。ENEOSホールディングスや国際石油開発帝石(INPEX)などの国内銘柄、海外ならエクソンモービル(XOM)が代表格だ。

防衛・軍事セクターも動く。中東情勢が緊迫すれば、各国が国防予算を積み増す動きは止まらない。三菱重工業をはじめとする防衛関連銘柄は近年すでに強いトレンドにある。米国ではロッキード・マーチンやレイセオンが代表格だ。

そして「有事の金」と呼ばれる金(ゴールド)。地政学リスクが高まり、通貨への信頼が揺らぐ時、最終的な資産の避難先になる。金ETFや金採掘株が注目される局面だ。金は配当も利息も生まないが、何百年もの歴史で「最後に残る価値の保存手段」として機能し続けてきた。インフレが進む環境では、実質的な購買力が下がる現金よりも金が選ばれやすくなる。

下落リスクが高いセクター

航空・運輸は厳しい局面を迎える。燃料費高騰と旅行自粛のダブルパンチだ。1973年のオイルショック後も、航空会社は倒産・経営危機が相次いだ。コストが急増しても、チケット代を即座に上げると客が離れるジレンマに陥りやすい。JALやANAのような大手でも、燃油サーチャージの上昇が需要を冷やし、業績圧迫につながりやすい。

化学・製造も苦しい。石油を原料とする製品を扱う化学メーカーは、コスト上昇が直撃する。値上げで転嫁しきれなければ、利益率が一気に悪化する。

自動車も要注意だ。ガソリン高による買い控えに加え、「大きな買い物は今じゃない」という心理的な自粛が加わる。コロナ時の移動制限に似た効果が、今度はコスト面から発生する可能性がある。トヨタのようなグローバル大手でも、欧米での販売鈍化と為替リスクが重なれば、数字が悪化するシナリオは十分ありえる。

NVIDIAは「インフラ」ではないのか?

「AIチップは現代のインフラだ。NVIDIAは絶対に下がらないはずだ」という声をよく聞く。確かにその見方は鋭い。だが、インフラには2種類ある。

攻めのインフラとは、景気がいい時に企業が「さらに成長するために」買うものだ。AIサーバーやGPUクラウドは典型例で、業績拡大の見通しがあってこそ投資される。

守りのインフラとは、景気が悪くても「生きるために」買わざるを得ないものだ。電力・水道・食料・タバコがこれにあたる。自粛ムードが広がっても、コーラを飲む習慣もタバコを吸う習慣も大きく変わらない。

中東情勢が長引き、エネルギー価格が高騰すれば、企業の利益は削られる。すると、どんなに優れたAIチップでも「今は投資を先送りにしよう」という判断が企業の間に広がる。これが、現在のハイテク株が手放しで上がらない構造的な理由だ。NVIDIAが「いらない」のではなく、「今すぐ買い増す理由が薄れる」という話である。

以下の表は、中東情勢悪化を前提にした場合の主要セクターの動きを整理したものだ。

セクター代表銘柄方向理由
エネルギーXOM・INPEX(1605)上昇原油・ガス価格の上昇が利益に直結
生活必需品コカ・コーラ(KO)・アルトリア(MO)堅調自粛生活でも需要が底堅い
金(ゴールド)金ETF・金採掘株上昇通貨・株への不信感が高まる局面の逃避先
ハイテク・グロースNVDA・ADBE下落高金利+企業の投資自粛で期待値が剥落
航空・旅行JAL(9201)・ANA(9202)下落燃料高+自粛ムードのダブルパンチ

もちろんこれは「絶対」ではない。中東情勢の急転換や政策変更で一気に逆転することもある。あくまで「このシナリオが長引いた場合に、どちらに傾きやすいか」を整理した目安として読んでほしい。

「ディフェンシブ銘柄」が本当に強い理由

「ディフェンシブ銘柄」という言葉をよく聞く。景気変動に関係なく需要がある生活必需品・公益事業などの銘柄のことだ。スタグフレーション環境では、これが本当に機能する。

理由の1つ目は「リップスティック効果」だ。

不況になると、人は高い贅沢品(海外旅行、高級ディナー)は控えるが、安い嗜好品や日用品は最後まで買い続ける。財布が苦しくなると「ちょっとした贅沢」に逃げるからだ。外食を減らしても、コーラは買う。旅行を辞めても、タバコは吸う。「リップスティック効果」とはそういう経済心理を指す。

理由の2つ目は「価格転嫁力」だ。

インフレで原材料コストが上がっても、強いブランドを持つ企業は値上げをしやすい。「このブランドでなければ」と消費者が感じる商品は、多少値上げしても離れにくい。コカ・コーラが100年以上にわたって生き残り、アルトリア(旧フィリップモリス)が高い配当を維持し続けているのはこの力があるからだ。

さらに、ディフェンシブ銘柄の多くは配当利回りが高い。株価が下落しても配当が入り続けることで、保有コストが心理的に下がる。「下がっても配当がある」という安心感は、含み損を抱えた時に投げ売りを防ぐ精神的な緩衝材にもなる。

不況で株式市場全体が下がる局面で、こうした銘柄が「相対的に強い」のは歴史が何度も証明している。

「生活必需品」は全部同じではない:食品と嗜好品の防御力の差

ここで一つ重要な注意点がある。「生活必需品(ディフェンシブ)」とひとくくりにされがちだが、食品メーカーと嗜好品メーカーでは、原油高・物価高の局面における防御力に決定的な差がある。結論から言えば、食品メーカーは嗜好品メーカーほど盤石ではない。

比較項目食品メーカー(パン・冷凍食品・菓子等)嗜好品メーカー(タバコ・酒等)
原材料の影響大。小麦・大豆・砂糖・パーム油など輸入原料を多用。原油高で物流費も直撃小。タバコ葉などは原材料費の比率が低く製造コストが安定
価格転嫁の難易度難。値上げすると消費者がPB商品や他社へ逃げやすい易。強いブランドと依存性により、値上げしても客が離れない
世論・政府の目厳しい。「生活者の食卓を守れ」という圧力があり過度な値上げは批判される緩い。増税ついでの値上げが社会的に許容されやすい

食品メーカーが今まさに直面しているのが「値上げ疲れ」だ。円安と中東不安でコストは高いまま固定されているが、すべてを価格に転嫁すると売れなくなる。結果、メーカーが身を削って利益率を落とす構造に陥りやすい。中東情勢で「原油高・円安」が再燃すれば、この負のスパイラルが再び動き出すリスクがある。

一方でタバコ(JTやアルトリア)・酒(キリン・アサヒ等)といった嗜好品は、不況下でも需要が減りにくく、値上げ余地も大きい。「守り銘柄の中でも、より堅い守り」を選ぶなら、食品より嗜好品を優先するというロジックはここにある。

もちろん嗜好品にも固有のリスクはある。タバコは長期的に喫煙人口が減少するトレンドがあり、酒は健康志向の高まりという逆風がある。あくまで「短・中期の荒波をしのぐ」という目的での評価として捉えるのが適切だ。

日本株で「守り」を作るとしたら

国内の個人投資家目線で、スタグフレーションに強い日本株の方向性を整理してみる。

まず資源・エネルギー関連では、INPEXや石油資源開発(JAPEX)が原油高の恩恵を受けやすい。ENEOSホールディングスも精製・販売の規模を考えると注目されやすい銘柄だ。

防衛関連では三菱重工業が筆頭だが、川崎重工業や IHI なども防衛事業の割合が増えており、国防予算拡大の流れに乗りやすい。近年は防衛費のGDP比2%達成という政府目標もあり、この流れは中東情勢に関係なく継続する可能性が高い。

生活必需品では、日本たばこ産業(JT)が興味深い銘柄だ。配当利回りの高さで知られ、タバコという「やめられない習慣性消費財」を扱っている。不況下でも需要が底堅く、価格転嫁力もある。ただし長期的には喫煙人口の減少というリスクも抱えているため、短・中期の守り銘柄として捉えるのが現実的だ。

食品大手では、日清食品や味の素、明治ホールディングスのような内需中心で生活必需品を扱う企業も底堅い。インフレ局面での値上げを消費者が受け入れてきた実績がある。

公益事業(電力・ガス)も伝統的なディフェンシブセクターだ。ただし、電力会社は燃料費高騰の影響をもろに受ける側面もあるため、一概に「有利」とは言えない。このあたりは業種内でもポジションが分かれる。

「守り」の銘柄を持つことは「負け」ではない

投資の話をすると「どの成長株を買うか」ばかり議論になりがちだ。

だが相場の歴史を振り返ると、資産を増やした人よりも**「失わなかった人」**のほうが最終的に大きな差をつけていることがわかる。複利の力は、元本が大きく残っている状態でこそ機能するからだ。

スタグフレーションのシナリオでは、エネルギー株・金・生活必需品という3本柱が伝統的な「守りのポートフォリオ」を構成する。航空・化学・自動車への過度な集中を避け、インフレに強い実物資産や高配当株を一定割合持つことが、嵐をしのぐ構造になる。

全力で守りに入ることが正解とは言わない。成長株やテック株をゼロにする必要もない。ただ「今のポートフォリオがスタグフレーション局面で全部沈む構造になっていないか」を確認しておくだけでも、大きなリスクを避けられる。ポートフォリオ全体の2〜3割をディフェンシブ寄りにするだけで、精神的な安定感はかなり変わる。

中東情勢がどうなるかは、誰にも正確には予測できない。明日解決するかもしれないし、さらに数年長引くかもしれない。

だからこそ、「このシナリオが来た時に自分のポートフォリオはどう動くか」を、今のうちに静かに問い直しておく価値がある。

「また中東か」と画面を閉じていた頃の自分に、今なら少し違う言葉をかけられる。嵐がいつ来るかは予測できなくても、嵐に備えた船の造り方は学べる。 投資における「守り」は臆病さではなく、長く戦い続けるための知恵だ。

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