「有事の金」は本当に正解か──1973年・1990年・2023年・2026年の時系列で徹底検証

戦争が起きると金は上がる──この格言は本当か。湾岸戦争・ガザ侵攻・2026年中東危機のデータを並べると、金が上がる条件と下がる条件が浮かび上がる。1970年代との決定的な違いとは。

「戦争が起きれば金は上がる」──その常識は本当か

ある夜、ベテラン投資家が苦い顔でスマホを見ていた。

「有事の金と言われたのに、なぜ下がっているんだ」

2026年3月、中東で産油地帯への軍事攻撃が激化した。教科書通りなら、金(ゴールド)は上がるはずだった。しかし現実は逆だった。金は43年ぶりの週間下落率を記録し、歴史的な暴落を演じた。

何が起きたのか。そして「有事の金」という格言は、今も使えるのか。

過去50年のデータを並べると、意外なパターンが浮かび上がる。

歴史比較①:2023年10月 ガザ侵攻

まず最近の事例から。

2023年10月7日、ガザ侵攻が始まった。この時の金の動きは「教科書通り」だった。

時期金価格(ドル/oz)騰落率
2023年10月7日(発生直前)$1,830底値圏
2023年10月末$2,000超+約10%
2023年11〜12月さらに上昇史上最高値更新

地上軍の侵攻懸念でパニック買いが発生し、約1ヶ月で10%上昇。さらにその後、米国の利下げ期待が重なって史上最高値を更新した。「有事の金」の格言が完璧に機能した局面だった。

歴史比較②:1990年 湾岸戦争

現代の「有事の金」イメージを作った代表例だ。

時期金価格(ドル/oz)騰落率
1990年7月下旬(イラク侵攻前)$365
1990年8月(クウェート侵攻)$414+約13%
多国籍軍勝利後急落ほぼ全戻し

原油高騰とセットで金も急騰した。しかし「砂漠の嵐作戦」による多国籍軍勝利の道筋が見えると、金は買われた分をほぼすべて吐き出した。

有事の「解決」が見えた瞬間、金から資金が逃げる。これも重要なパターンだ。

歴史比較③:2026年3月の「異常事態」

さて、問題の2026年3月だ。

時期金価格(ドル/oz)騰落率状況
3月1日(開戦前夜)$5,400嵐の前の静けさ
3月上旬(有事発生)$5,600+4%一時的な「有事の金」買い
3月19〜20日$4,500-11%歴史的暴落・43年ぶりの週間下落率
3月末$4,460-17%安値圏で推移

有事なのに金が下がった。一体なぜか。

答えは「米ドルの金利3.6%」だ。

2023年や1990年との決定的な違いを一言で言えば、これに尽きる。

過去の有事では「戦争が起きると不況になる→金利を下げるだろう」という期待が働いた。利息がつかない金でも、ドルの利息がゼロなら相対的に魅力的に見える。

しかし2026年3月は違った。原油が急騰してインフレが止まらない。「Fedは金利を下げられない、むしろ上げるかもしれない」という恐怖が市場を支配した。年率3.6%の利息がつくドルに対し、何も生まない金は比較劣位に立たされた。さらに、産油国が戦費調達のために金を大量売却したことが追い打ちをかけた。

1970年代:金が「23倍」になった時代との比較

視野を広げて1970年代を見てみよう。今の状況に最も近い「インフレ×中東有事」の時代だ。

第1次オイルショック(1973〜1974年)

第4次中東戦争をきっかけに原油が4倍になった「狂乱物価」の時代だ。

時期金価格(ドル/oz)騰落率
1973年1月$65
1973年10月(中東戦争勃発)$100+53%
1974年末$197約3倍(+200%)

第2次オイルショック(1979〜1980年)

イラン革命が引き金となり、金価格が史上最大の暴騰を見せた「伝説」の時期だ。

時期金価格(ドル/oz)騰落率
1979年初頭$220
1979年末$500+127%
1980年1月(ピーク)$850約4倍(+286%)

10年で$35から$850。約23倍の上昇だ。

では、なぜ1970年代は爆上がりし、2026年3月は下がったのか。

「天秤」で理解する:ドルvs金の攻防

投資家の意思決定を「天秤」に例えると分かりやすい。

1970年代の天秤

左の皿(現金・ドル):物価が15%上がるのに、銀行の利息は追いつかない。持っているだけで購買力が溶けていく(実質金利がマイナス)。

右の皿(金):数に限りがある実物資産。物価と連動して価値が上がる。

結果、全員が現金を捨てて金に走り、10年で23倍の上昇が起きた。

2026年3月の天秤

左の皿(米ドル):Fedが3.5〜3.7%の高金利を維持。ドルを持っていれば確実に利息が入る。

右の皿(金):有事で一時的に買われたが、「ドルの方が得では?」という冷静な計算に負けた。

1970年代と2026年の違いは「実質金利がマイナスかプラスか」という一点だ。この一点が、金の命運を大きく変える。

「有事の金」の正しい使い方

ここまでの分析をまとめると、金の動きには3つのパターンがある。

「噂で買って、事実で売る」

金は戦争が始まる「前」に買い、始まった「直後」の数日で売り抜けるのが、歴史が示す最適解だ。有事の初動でいったん上がるが、高金利環境では長くは続かない。

インフレ×高金利では原油に負ける

「インフレ(物価高)+高金利」が続く局面では、金よりも原油・エネルギー株のほうが物価高そのものを味方にできる。2026年3月がまさにこのパターンだった。

「利下げ」が見えてきた時こそ金の本番

景気後退が本格化し、Fedが金利を下げ始めた時、天秤は再び金に傾く。1970年代の爆上がりも、最終的には「実質金利のマイナス転換」が起爆剤だった。

2026年3月の金の下落は、歴史的に見れば「押し目」である可能性がある。今はまだ高金利の維持期だ。しかし「景気後退→利下げ→金の逆襲」というシナリオが現実になる局面が来た時、1970年代の歴史は繰り返すかもしれない。

金を語る時、常に「金利」を隣に置いておく。これが、歴史に学んだ投資家の習慣だ。

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